特別連載企画 バルセロナ通信(オーバーツーリズムと住宅問題)
スペイン各都市で7月6日にバルセロナで行われたアンチ・ツーリズムのデモの様子は、ヨーロッパだけではなく日本でも報道された。観光客に向かって水鉄砲を放つデモ参加者の様子を記憶している方もいるのではないだろうか。
このアンチ・ツーリズムのデモはバルセロナだけでなく、ここ数か月の間にパルマ・デ・マヨルカ、マラガ、イビザ、カナリア諸島など、多くの観光地を抱える都市で大規模に行われた。各市で共通する訴えは、観光の無制限な増大が地元住民の持続可能な生活の脅威となっていることに起因する。
スペイン国立統計局によれば2023年1年間にスペインを訪れた外国人は初めて8500万人を超えた。2024年1月から4月の間にスペインを訪れた外国人観光客は2400万人であり、前年度の同期間に比べて14.5%増加している。スペインの人口が4800万人であることを考えればこの数字が市民生活にどれほどのインパクトがあるのか想像するのは難しくないはずである。
各地のアンチ・ツーリズムデモでは観光業のもたらす労働、社会環境への影響を公に非難している。具体的には、観光客の増大によりアパートが観光用に転化されることで地域住民の住居が不足することによる住宅価格の上昇、ジェントリフィケーション(再開発などにより富裕層の住民の流入や商業活動の高級化により元々住んでいた低所得住民がその地区から排除される社会現象)の進行による商業施設の観光施設化、これに伴う物価・生活費の高騰のほか、治安や環境問題、都市衛生悪化の問題を掲げている。
バルセロナ市のGDPの14.5%が観光業によるものであり、カタルーニャ州全体やスペイン全体と比較しても高い数値を示している。住宅検索プラットフォームであるFOTOCASAによると、この10年間においてバルセロナの住宅賃貸価格は88%上昇した一方で、スペインの平均賃金は16%上昇したにすぎない。また、スペインへの観光客はイギリス、ドイツ、フランス、北欧が多数を占めるため、スペインと比較し経済的に豊かなヨーロッパ各国からの観光客の流入は物価上昇に拍車をかける原因となっているといえる。
バルセロナ市は今年の6月に住宅価格高騰の抑制と市民の福祉向上を目的として2028年11月までに約1万戸あるツーリスト用アパートに対するライセンスを無効とすることを発表した。ライセンスを無効化することで観光用アパートを市民の住宅用アパートへ転化することを狙うものであるが、この政策に反対し法的手続きへ進む動きもある。
観光業と地域住民の生活のバランスはバルセロナ市やスペインに限った問題ではなく、世界が抱える問題のひとつである。
参考