書評:『貧困・孤立からコモンズへ』
立教大学コミュニティ福祉学部特任教授 津富宏

この書の前に匹敵する書はなく、この書のあとに匹敵する書はない。子ども・若者の困難について学びたい・考えたい人であれば、この本を読み通し咀嚼し自分のものにせざるを得ない。本書は、下記の点で圧倒的に優れている。
第一に、マクロ(政策)からミクロ(現場)まで、また、都会から地方まで、また、福祉から教育、社会保障まで、また、外国ルーツの子どもまでカバーする執筆陣のラインアップである。青砥氏だからこそ、これらの筆者に依頼ができたのだと思われる。
第二に、各章の内容が見事に重複せず強化しあっていることである。誰に何をどの程度書いてもらうのか、その目配りが出色である。複数の筆者が書いていながら、語り手が交代していく一つの物語のような書である。
第三に、貧困家庭の過半数が「ふたり親」世帯であるといった、この分野で活動するのであれば知っておかなければならないのに必ずしも知られていない「常識」が各章に含まれており、本書は、今後、このトピックについて議論するときに不可欠な基礎知識を提供してくれている。
第四に、本書の読みやすさである。連続講座の内容を原稿に起こしたため、過度に易しくも難しくもない適切なレベルで仕上がっている。この読みやすさだからこそ、私はこの書を多くの人に勧めることができる。
さて、本書をどのように読むか。青砥氏が引こうとしている補助線は「ローカル・コモンズ」である。各章は、どのように「ローカル・コモンズ」というコンセプトと響き合っているのか。各章の主張からは「ローカル・コモンズ」をひとつの解決策として導きうるのか。「ローカル・コモンズ」が希望であるとして、各章は、それが成立するためのどんな前提条件を提示しているのか。読者には、ぜひこうした問いを持ちつつ、答えを探してほしい。さらに、読者には、自らの地域における「ローカル・コモンズ」を探しだしつくりだす試みをしてほしい。市民が動かす、市民のための、市民から成る活動は、どこの地域にもある。たとえば、評者は、静岡において、20年以上、ケアの共同体を、地域の市民の力でつくりだしてきた。各地で展開されてきた、内発的発展こそ「宝」である。本書をきっかけに、ローカルな水脈をコモンズとして、内発的に地域を取り戻す人々が立ち上がってくることを期待する。
2024年1月27日 (月)