コロナ禍における子どもの貧困と地域社会【代表のコラム】
2022年の新春を迎え、ごあいさつ申し上げます。
格差の拡大を「見える化」したパンデミック
2020年春から始まったパンデミックは長いトンネルとなりました。出口がなかなか見えない中でも、多くの方々は働き方、学び方、暮らし方を少しずつ工夫しながら過ごしておられるように思います。しかし、今回のパンデミックによって、全国で2000万人を超えると言われる困窮層の方々はとりわけ大きな打撃を受けましたが、止まらず、日本社会全体で格差がさらに拡大していることを「見える化」しました。低収入の非正規労働者やアルバイトで生計をつないでいた半失業の若者たちが仕事を失い、収入を激減させました。とりわけ女性、とりわけシングルマザーを直撃したとも言われています。
2016年に子どもの学習支援に関わる全国のNPOなどの団体が「子どもの貧困・教育支援団体全国協議会」をつくりました。私はその代表理事を務めています。全国協議会は、昨年、「パンデミックにおける学習支援」というテーマでオンラインでのトークイベントを複数回開催しました。
その中でも紹介されましたが、2021年2月27日の「休校要請」でほぼ全国的に休校になった3月2日から、登校が再開された6月7日までの3か月の間、子どもたちは、学校という「学習」だけではない「友だちづくり」「遊び」というかけがえのない「場」を失いました。
ある小学校低学年の子どもを持つシングルマザーは、コロナ禍であっても、自分は生活のためには働かざるを得ず、1日中、子どもを家の中に置いたままにすることの不安を訴えていました。多くの人々がストレスを増大させながら過ごしていました。私たちの調査でも、利用者の子どもの親の2割が仕事が減るか、なくなったといいます。
さらに大きな問題は、学校での給食がなく、この3か月間で体重がへったという子どもたちがでたことでした。
そんな状況の中で、DVや虐待にとどまらず、子どもや若者たちの自殺者も増加しました。不登校と判断された小中学生は19万人になり、前年度より1万5千人増え、過去最高になり、そのほかに「自主休校」の小中高生も3万人に上ります。
しかし、私たちは、感染拡大の中で、社会全体が閉鎖状況になっていく中でも、オンライン、通信、電話、そして可能な限り対面を維持するなど、学習支援、居場所活動を中断することなく継続させました。
ローカル・コモンズをめざす「堀崎モデル」
日本における貧困と格差問題の最大の課題は、「支えが必要な人を社会が適切に把握していない」ことと、「支援が必要な人に支援が届かない」ことと思われます。
私たちが2011年、居場所がない若者たちの「たまり場」を作ったのは、居場所に多様な若者たちが集まり、交流することで受容し合える力を若者たちに育てなければならないと考えたからでした。私たちはこの10年間、既存の法制度の枠内では支えきれず、こぼれ落ちる多くの子どもや家族を見てきました。
私たちの団体は2021年の1月、さいたま市見沼区堀崎町に拠点を移しました。目的は地域の住民の方々と協同して、地域の現在の社会課題に向き合い、将来の地域像を話し合える関係性が育つコミュニティ、「堀崎モデル」(ローカル・コモンズ)をつくることです。
今回始めた「堀崎モデル」は貧困や格差、外国人問題など地域を分断し、教育や福祉など従来の縦割りの行政枠組みでは解決がむずかしい課題に、地域社会が協働して解決モデルをつくるトライアルになることを目指します。社会の多様性を可視化し、支援を必要な人々と家族に届ける地域モデルをつくろうという実験的活動でもあります。私たちは再度、活動を支える資金集めをしながら、山あり谷ありですが困難な社会的課題に向き合おうとしています。
地域の財産(コモンズ)であるソーシャルキャピタルの形成には、地域レベルでの社会包摂的なコミュニティ政策が必要となります。持続的な事業づくりには多様な支援事業をコミュニティの共有財(ローカル・コモンズ)にしなければならないものと思います。
さらに「公助」の脆弱性が心配される日本社会で、地域のソーシャルキャピタルを育てようとするNPOなどが市場競争に晒され、「共助」もさらに衰退すれば、将来、この社会は孤立した個人しか残らないことになります。
困難を抱えた子ども・若者の支援に係る学習支援など他の同様の事業についても、将来の地域社会の形成を見据えた事業の公益性の実現を目標に据えたコミュニティ政策も必要になるでしょう。まだまだ課題は少なくありませんが、引き続きご支援をお願いします。
みなさまのご多幸をお祈りします。
NPO法人さいたまユースサポートネット
代表 青砥 恭